環境省がやんばる国立公園(仮称)の指定及び公園計画決定への意見(意見書)を募集しています。
団体でも個人でもよいそうです。締め切り間近です。
http://www.env.go.jp/press/102132.html
意見提出期間
平成28年2月27日(土)から3月27日(日)までの30日間
意見提出先
環境省自然環境局国立公園課
意見提出方法
ア 郵送の場合: 〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2 ※締め切り日当日消印まで有効
イ FAXの場合: 03-3595-1716
ウ 電子メールの場合: shizen-kouen@env.go.jp
「ヘリパッドいらない」住民の会と高江ヘリパッド建設反対現地行動連絡会は、連名で以下の意見書をおくりました。
意見書
やんばる国立公園化計画および世界自然遺産登録の問題点
- 世界自然遺産登録に関する私たちの考え -
はじめに
2015年8月、国と沖縄県の辺野古基地建設に関する集中協議でのこと。国は沖縄県に対し、国立公園・世界自然遺産登録の為、北部訓練場におけるSACO(通称日米特別行動委員会)合意事業(以下SACO事業とする)の協力を要請した。
後で詳しく述べるが、SACO事業は負担軽減を偽ったオスプレイ配備のための事業であり、基地の機能強化・固定化につながるものだ。建設予定地に近い東村高江区では、2度の反対決議があがっており、高江住民及び有志による座り込み抗議活動が8年以上続いている。
世界自然遺産登録により、やんばるの豊かな自然が守られることには大賛成だ。
しかし、そのために命や暮らしが脅かされるような事業が後押しされることは、その趣旨からいっても真逆の行為である。そして、登録を願う沖縄県民の気持ちを逆手に取るやり方は非道であり、決して許されない。
また、昨年、3月開催された環境省の住民説明会においても、やんばるの森の真ん中に大きく位置する米軍基地の問題についてほとんどふれておらず、その姿勢に違和感を感じる。
1.オスプレイその他軍用ヘリによる自然破壊の実態と懸念
2012年、沖縄にオスプレイが配備され、直ちに高江にも飛来、訓練が開始された。そして、2014年高江小中学校の窓ガラスに4羽のノグチゲラが激突、絶命した。森の奥に住んでいたヤンバルクイナが今年10月に新川(あらかわ)橋近辺で輪禍にあった。この数年、高江近辺でヤンバルクイナが路上を横断する姿を目撃することが急増している。オスプレイの低周波を含む爆音は、1時間、2時間とその音にさらされると、人間でも心臓が異常となり、胸が息苦しくなる。これは,たくさんの人が経験している。ペースメーカーを使用している女性は息苦しくて高江にはもう来れないとも言っている。高江の場合、生活の場に極めて近距離にオスプレイ用のヘリパッドが建設されてしまい、離発着のための超低空飛行やホバーリングがなされ、さらには、地形に沿った低空飛行訓練が行われているから、爆音は一層すさまじい。N4地区ヘリパッド(以下N4と略す)から400メートルしか離れていないところに住む家族は、常に真上から爆音が聞こえ、いつ落ちてくるか不安で仕方ないと話す。夜間訓練では、家の中にいると、家具等がガタガタきしみ、振動の激しさも凄まじいものがある。勿論、会話も中断される。伊江島では、13年の6月に乳牛3頭が早産、母牛2頭が死んだこともある。2ヶ月間、防衛局の測定で80~100dbの騒音があったと確認されている。現在、妊娠中の方は、N4から1キロの所に住み、低周波の胎児に与える影響を心配している。
飛行訓練は1訓練で数時間を費やすこともあり、また、夜間10時ちかくまで旋回し回ることもある。新聞報道では、年間4690回の訓練が想定されていると報じられている。
ノグチゲラ等の営巣期間でも、訓練の頻度や形態は変わらず、やんばるの生物たちの上を低空飛行で飛び回っている。これが、米軍が計画している100機のオスプレイが配備され、訓練地である北部訓練場に飛来することになれば、生物に与える影響、被害は計り知れないことは言うまでもない。負担軽減を名目とした訓練場の過半の土地の返還がなされても訓練回数は現状のほぼ2倍に増える。また、ヘリコプターの訓練空域が変わることはなく、やんばるの森全域を飛び回るのは目に見えている。オスプレイパッドを増やすことによる被害は想像以上のものとなる。返還される予定の過半の地域を国立公園化しても、動植物に与える影響は軽減することはない。動植物生態にとって境界はない。国立公園化しても却って人為的な境界や遊歩道、維持管理のための環境保全道路施設が新設されることで森が寸断され環境は悪化する。(北部訓練場はゲリラ戦を想定したジャングル戦闘訓練場であり、森の中では、百名をこえる部隊がサバイバル訓練などで森を踏み荒らし、射撃訓練などを行い、動植物に被害を与えているが、国立公園と隣接するともなれば新たな境界物設置は必須である。現在、訓練場提供用地と民間地の境界にフェンスはなく、「無断で立ち入った者は日本国の法律によって罰せられる 米国海兵隊」という趣旨の和文英文併記の警告文が記されたA1サイズほどの白地の立て看板が一定置きに設置され、境界は威嚇のグレーゾーンとして広大な提供用地周辺をめぐっている。)
2.国頭(くにがみ村<やんばる)山地の乱開発の現状
これから建設を予定されているN1地区G地区H地区の森林地帯は、沖縄県北部国有林樹齢級分図よると、70年を越える原生的自然林が広がる一帯である。今回、環境省が示した国立公園案の国頭山地では、林道が張り巡らされ、アスファルト舗装されるとともに森林自体も皆伐だけでなく除伐、間伐や下草刈りがなされており、それゆえに亜熱帯の森としては、乾燥化が進行した地域であり、かつての豊かな生態系を保持するには、貧弱な環境になっている。イタジイに覆われた湿潤な環境こそそこに住む動植物にとっては必要不可欠であり、それが無ければ生態系を維持し繋いでいく事は困難である。大国(おおくに)林道から西側山地では、網目のように林道が張り巡らされ、アスファルトばかりでなく、ゴミの不法投棄場、マングースや野犬、野良猫、外来植物の侵入を許すことになった。また希少植物や昆虫類の乱獲を招いている。網目状の林道は、台風時の強風の通り道となり、風雨にさらされた森林は立ち枯れし、荒廃してきている。台風や大雨による林道の大崩落は毎年、頻繁に引き起こされている。本来の世界自然遺産の評価基準をクリアーするには、国頭山地は難しい状態にあり、さらには、過半の返還地域を含めても状況は同じである。
3.北部訓練場の問題
最後に、北部訓練場について述べる。北部訓練場は1957年米国民政府統治下の強制接収による「北部海兵隊訓練場」を前身に1972年の沖縄の日本「復帰」による日本への施政権返還によりこの一帯は国有林として管理されるが、同時に、暫定土地使用法によって米国に軍用地として提供、「北部訓練場=ジャングル戦闘訓練場」として継続使用されている。その広さは、国内で最大の米軍施設であり、約7800ha、そのほとんどが亜熱帯湿潤な雲霧森に覆われている。国頭村、東村にまたがり、国頭村の23.1%、東村にいたっては村有面積の41.5%を占めている。この豊かな森林の恵みで、ここには、5つのダムがあり、沖縄本島の6割の飲料水を賄う水源地帯ともなっている。水源地に軍事訓練場があるという異常な状態が続いており、県民の生活と命に関わる人権問題とも言える。皮肉ではあるが、この自然の豊かさがあるばかりに、米軍は、ジャングル訓練場および軍用ヘリ飛行訓練地域として目をつけ、今に至っている。
1995年の米兵3人による忌まわしい暴行事件を機にその翌年沖縄県民の烈しい怒りを逸らすべく沖縄基地負担軽減を大義名分としたSACO合意が日米両政府によってなされた。その実際の意図は基地のたらいまわしと機能向上再編にあったことは衆知の通りである。その時点で北部訓練場も過半の返還が約束された。しかし、返還の条件として、新たなオスプレイが使用可能なヘリパッドを6個造らなければならなくなった。このことを、世界自然遺産がらみの観点からみれば、大きく2つの問題がある。ひとつは、新設ヘリパッド予定地が、先述の70年を超える森林地帯であり、固有種や希少種の宝庫であり、世界的にも特異な生態系を保持する唯一無二の森である。ノグチゲラの多くの営巣が確認されている。しかも、国土の1.5%しか残されていない照葉樹林地帯である。(北部訓練場全体もそうであるが)この希少な亜熱帯の森とそこで育まれた絶滅を危惧される更に希少な動植物をヘリパッド建設(工事用道路工事含む)のための森林伐採という形で危機にさらす訳にはいかない。2つめに、残される半分の基地が、固定化されてしまう問題である。先にも述べたとおり、半分になった訓練場にオスプレイをはじめとする軍用ヘリが飛来し、低空地形訓練などを、何十年も続けるようになれば、時間的な意味でも住民や動植物へ累積する影響は大きい。しかも、その範囲は、残存する基地ばかりでなく、返還地そして今回、計画にある国頭山地一帯に及ぶのは言うまでもない。
更に、特筆すべきは、返還時原状復帰を義務付けない日米地位協定による基地の自由使用である。管理の及ばない治外法権の基地内では、飛行訓練や地上訓練による山火事や墜落事故による汚染と併せて、その他有害物質による汚染が考えられることである。その実例は枚挙にいとまがない。水資源、人体や生態系への汚染は生存にとって深刻な問題となる。北部訓練場は広大なだけにその問題のコントロールは難しい。
4.まとめ
以上のような問題が精査されないまま、世界自然遺産登録のためにSACO事業が後押しされてしまうようなことがあれば環境省にもその責任があると考える。
“いのち”の輝きを謳う生物多様性の環境保護・保全を主眼とする世界自然遺産登録の地に隣接して“いのち”の対極にある軍事基地があるのは誰が考えても不自然である。IUCNならずとも否定の勧告は必至である。
登録を阻んでいるのは北部訓練場の存在である。
本当に登録したいのであれば、環境省として北部訓練場の全面撤去を求めるべきである。